高性能モバイルワークステーション「ELSA VELUGA」で
仮想プラットフォーム「NVIDIA Omniverse」は利用できるのか?

NVIDIAが開発・提供する仮想コラボレーションプラットフォーム「NVIDIA Omniverse」。従来のワークフローを劇的に変えてしまう可能性を秘めた新たな仕組みだが、作業に使用するマシンはノートPCでも対応可能なのか。今回はToo デジタルメディアシステム部の雨田加冷努氏に、高性能GPUを搭載するモバイルワークステーション「ELSA VELUGA」を使って検証してもらった。

1919年創業のTooは、100年以上の歴史を持つ総合商社。アルコールマーカー「コピック」などのデザイン材料メーカーとして知られる一方で、Autodesk製品をはじめとするCG系ソフトウェアも幅広く取り扱うなど、長きにわたってデザイナーやクリエイターの業務をサポートしてきた。そのような背景から、Tooはジーデップ・アドバンスやエルザジャパンとともに、NVIDIA Omniverseの検証と導入支援のためアシストセンター「Omniverse G.E.T.」の運営に参画。導入を検討する企業へのデモンストレーションや事前検証などを行うとともに、各ユーザーのニーズに合わせた最適なソリューションを提案していく。

雨田氏によれば、NVIDIA Omniverseは「仮想コラボレーションとリアルタイムシミュレーションを実現するためのオープンプラットフォーム」である。そもそも、複数のクリエイターやデザイナーが共同で作業を行う場合、従来であれば1つの作業データを特定のファイル形式に変換して受け渡しを行い、それぞれの作業を進めていく必要があった。しかし、NVIDIA Omniverseでは仮想空間上に1つの作業データを置き、それに対して複数のユーザーやチームがさまざまなデザインツールやアセットなどを使ってアクセスし、同時に作業を進めることが可能となっている。そのため、NVIDIA Omniverseを活用すれば「クリエイターやデザイナー、エンジニアリングの複雑なワークフローが一変する」と雨田氏は解説する。

なお、NVIDIA Omniverseのシステム要件でもっとも重要なポイントとなるのがGPUで、最低限として「RTX GPU」の搭載が必須となる。一方で、その他の部分ではそれほど高いスペックは求められないが、作業する内容や取り扱うデータなどによっては、当然それなりのスペックも必要となる。そこで今回は、NVIDIA Omniverseの専用アプリケーションの1つで簡単な制作や編集などに対応する「CREATE」を使ったパフォーマンスの検証を雨田氏が実施。ハイエンドなマルチGPUサーバーと比較する形で、NVIDIA Omniverse におけるELSA VELUGAのパフォーマンスや使い勝手を探ってもらった。

01サーバーに匹敵する優れた性能を発揮
20GBのファイルの読み込みも可能

今回は検証機として、プロ向けの高性能GPU「NVIDIA RTX A5000 Laptop(16GB)」や第11世代CPU「インテルCore i9-11900Hプロセッサー」、64GBメモリなどを搭載する15.6インチのモバイルワークステーション「ELSA VELUGA A5000 G3-15」(以下、VELUGA)と、AMDのハイエンドCPU「Ryzen 9 5950X」やGPU「NVIDIA RTX A5000(24GB)」、64GBメモリなどを搭載するマルチGPUサーバー(以下、サーバー)の2機種を用意。最新バージョン(2022.1.0)のCREATEアプリをフルHDサイズ(1920×1080)の解像度で使用し、2種類の検証でそれぞれのパフォーマンスを比較した。

1つ目の検証では、半透明マテリアル(チェスのコマ)を使用し、SSS(サブサーフェススキャタリング)に対してパストレースモード(サンプル値:64)のレンダリングを実行。その処理にかかった時間を計測した。なお、SSSの効果を確認するために対象オブジェクトの頭の付近にライトを設置したほか、ライトにフォグ効果をつけるためにRender Settings内のCommonタブにあるGlobal Volumetric Effectsを有効にし、Density Multiplierを1.16とした。

その結果、処理時間はサーバーの「7.96秒」に対してVELUGAは「8.80秒」となった。VELUGAは、ノートPCでありながら大型ワークステーションのサーバーに引けを取らない優れたパフォーマンスを見せ、雨田氏を驚かせる結果となった。

また、それぞれのGPUの使用率を見てみると、どちらもほぼ100%に近い値でしっかり使い切っている一方で、CPUは33%程度に収まっていることから、雨田氏はこの検証作業が「ほぼGPUに依存する」と分析。さらに、メモリは12GB程度しか使われていないことから、両モデルともに「スペック的にはまだまだ余裕な感じ。これなら、もう少し重い処理でも十分に対応できるはず」と結論付けた。

次に、2つ目の検証では、Omniverse内で提供されているサンプルシーンの1つで、AEC向けの大規模シーンとなる容量約20GBのファイル「World_BrownstoneDemopack_Morning(20Gb).usd」を使用。リアルタイムモードでのレンダリング中のフレームレートやパストレースモードでのレンダリングの処理時間をチェックするとともに、RAMやVRAMに高い負荷がかかることでの「ファイル読み込みの可否」なども確認した。

検証の結果、フレームレートはサーバーが「13fps前後」、VELUGAが「9fps前後」、処理時間はサーバーが「8.26秒」、VELUGAが「11.46秒」となった。この結果について雨田氏は、どちらもVELUGAがやや劣ったものの大きな違いには感じられず「特別に遅い印象はなかったし、処理もしっかりできていた」とその性能を十分に評価した。

また、ファイルの読み込みは、サーバーだと何の問題もなくスムーズに読み込んだのに対して、VELUGAではすぐには読み込みがスタートせず、3分ほど待つと読み込みを開始。その際にメモリの使用率が急上昇したものの、その後は問題なくファイルは開くことができた。

この挙動に対して雨田氏は、読み込みが始まる前の段階で「CPUの使用率が100%にまで上がっていた」ことに着目し、何らかの処理をしてからメモリにデータを展開している流れがあると分析して、その部分で「CPUのスペックが求められている」と考察。そこから、VELUGAですぐに読み込みがスタートしなかった要因は「CPUのスペック差にある」と結論付けた。

ただし、そもそもの話としてノートPCで20GBの大容量ファイルを開けること自体が「すでに驚くべきこと」と雨田氏は指摘。一般的なノートPCであれば開けないのが普通なので、その意味でも「かなりのスペックがあるマシンだ」と付け加えた。

  • 1つ目の検証のサーバーの画面
  • 1つ目の検証のVELUGAの画面
  • 2つ目の検証で、リアルタイムモードでのレンダリング中のサーバーの画面
  • 2つ目の検証で、リアルタイムモードでのレンダリング中のVELUGAの画面

02スリムな筐体デザインが魅力で
客先でデモができる点も大きい

そのほか、雨田氏はELSA VELUGAの優れたパフォーマンス以外に、そのスペックに対するスリムな筐体デザインや標準サイズに近いACアダプタにも注目。高性能なGPUを搭載する既存のノートPCは、得てして「筐体が厚くなりがちなうえに、大型のACアダプタが付属するケースも多い」ことから、ELSA VELUGAは「カバンに入れて十分に持ち運べるのがとても魅力的。客先でのデモンストレーションが可能になる点も非常に大きい」と好印象だった。

最後に、NVIDIA Omniverseの将来像についても語ってもらった。現状ではまだまだ足りない部分もあり、エンタメ方面でのコラボレーションがある程度実現した段階のNVIDIA Omniverseだが、今後の展開として雨田氏が注目するのは「デジタルツインの実現」である。NVIDIA Omniverseに興味を持つ人の多くが期待しており、その可能性を探っている企業も少なくないとのこと。例えば、現実世界で一定のコストや手間などがかかる製品の作成や評価、改善などの工程を「デジタルの世界に置き換えることで削減していきたい」というニーズがあるそうだ。これに対してNVIDIA Omniverseは、「離れた地域とのコラボレーション機能」をより強化していくことで「コストの抑制や効率の改善を見据えるとともに、将来的にはSDGsの観点での影響力も出てくる」(雨田氏)と期待する。

また、シミュレーション系も求められていることから、NVIDIAの強みを活かして「GPUを利用した物理演算が実用レベルになれば、活用の幅がさらに広がる」と予測。とくにAI技術の領域などは、自動運転の観点で自動車業界が注目していることから、プラットフォームとしてどんどん進化していけば「さまざまな業界での利活用が進み、一気に需要が増えるはず」とし、今後の成長に期待を寄せた。

ELSA VELUGA A5000 G3-15

プロフェッショナルのために造られた「NVIDIA RTX A5000 Laptop」と第11世代インテル Core i9プロセッサーを搭載した15.6インチモバイルワークステーション製品情報はこちら