ELSA VELUGA G3-15 + Varjo Aeroで、8K360度VR動画を視聴してみた。

執筆者:染瀬 直人(VRコンテンツクリエイター、映像作家、写真家)

VR(バーチャルリアリティー/仮想現実)には、ゲームベースのコンテンツやメタバースのような主にCGで構築された仮想空間以外に、360度映像やVR180と呼ばれる実写映像の世界がある。静止画の360度パノラマは、不動産や建設業界などのバーチャルツアーなど業務用途で重用されており、VR動画も観光、教育、エンタメなど、様々な領域で普及している。今回は、高性能モバイルワークステーションであるELSA VELUGA G3-15を中核に据え、 最大8K 30fpsの撮影性能を持つQooCam 8K EnterpriseというVRカメラで撮影した360度動画を最新VRヘッドセットVarjo Aeroで視聴した際の試用感とパフォーマンスをレポートしてみたい。

01ELSA VELUGA A5000 G3-15について

今回使用したPCは、処理能力の高いリアルタイムレイトレーシング対応第2世代となるNVIDIA RTX Aを搭載したモバイルワークステーション ELSA VELUGA A5000 G3シリーズの15.6インチモデルだ。

コロナ禍を経てリモートで仕事をすることが当たり前となった昨今、工業デザイン、建築設計、CGレンダリング、映像制作、機械学習、VRなど、大容量のデータをハンドリングする様々な分野において、デスクトップ並みのパワフルなCPU性能を持つモバイルワークステーションの需要が益々高まっている。ELSA VELUGA A5000 G3-15 (以下VELUGA G3-15)は、幅約35mm × 奥行き約248mm × 厚さ約20mm、重量がおよそ2.1Kg(バッテリー込み)と、薄型・軽量でありながら、CPUに第11世代インテル Core i9-11900H 8コア16スレッド、外部GPUにNVIDIA RTX A5000 Laptopを実装した強力なノートPCだ。

外観はすっきりとシンプル。ダークグレイのメタルの筐体は、落ち着きがあり、ビジネスユースに相応しく感じる。ショルダーバックに入れて持ち運んでも、それほど嵩張ることもないのが有難い。

キーボードの白色LEDのライトアップも視認性が良く、タイピングのフィーリングもスムーズで良好だ。タッチパッドは、マウス無しでもレタッチ等の細かい作業でなければ問題なく、操作がしやすい。

液晶ディスプレイは、15.6インチの4Kパネルで、発色はビビッドな印象。色域はAdobe RGBをほぼ100%カバーしているので、出先でも写真や動画の画像調整やカラーグレーディングの作業が進められるし、8K出力も可能なので最終的にはカラーマネージメントを施した外部モニターに出力して、仕上げの作業をしていくというワークフローも想定できる。

ボディの側面には、DP1.4a出力対応のThunderbolt4対応USB Type-Cポートが左に1つ、USB 3.2 Gen2 Type-Cポートが右に1つの合計2つ。USB 3.2 Gen2 Standard-Aが左に2つと右に1つ。その他、Thnderbolt 4やHDMI 2.1などの各種入出力の端子が設けられているので、外部モニターやVRヘッドセット等のデバイス、外付けストレージなどの拡張にも余裕を持って対応できるから心強い。排気口は左右で合計7つあり、排熱対策もしっかり施されている。メインメモリは16GB DDR4の実質64GB。ストレージはOSの起動用とデータ用にそれぞれ1TBづつ実装され、負荷の高い作業でも余裕のある設計となっている。

02Varjo Aeroについて

今回、視聴に使用したVarjo Aero(ヴァルヨ・エアロ)は、2016年に設立されたフィンランドのヘルシンキを拠点とするVarjo Technologies(ヴァルヨ・テクノロジーズ)からリリースされているプロ向けVRヘッドセットである。(Varjoはフィンランド語で「影」を意味する。)Varjoシリーズは高解像・広視野角で、人の眼に近いクオリティーを実現するハイエンドのVRヘッドセットがラインナップされており、欧州を中心にシミュレーションやトレーニングをはじめ、設計やデザイン、研究、医療の分野など、高精度が求められる産業用途に導入されている。Varjo Aeroは上位モデルでXR対応のVarjo XR-3、同じくVR用途のVarjo VR-3に次いで、2022年1月に国内で発売されたアドバンスドモデルとなる。

スペックは、ディスプレイが2880×2720のミニLED・LCD(最大35PPD)× 2枚が用いられ、リフレッシュレート(ディスプレイが画像の表示を毎秒何回更新できるかを示す)は90Hz、視野角が水平115度、対角134度となっている。価格はオープンプライスで、市場想定価格33万8800円(税込/2022年5月現在)。

03QooCam 8K Enterpriseについて

QooCam 8K Enterpriseは先に発売されたコンシューマー向け360度VRカメラのQooCam 8Kをベースに、ライブ機能を強化して発売された8K(7680×3840) 30fps 10bitと4K(3840×1920) 120fps 10bitのVR動画が撮影可能な360度VRカメラだ。2016年に創設された中国・深圳の南山区にオフィスを構えるスタートアップ企業のKandao(カンダオ)社が生産している。

360度映像はプラネタリウムのようなドーム型のシアターに投影して多人数で視聴する他、いくつかの鑑賞の方法があるが、代表的な視聴スタイルとしては、VRヘッドセットを被って体験するスタイルが挙げられるだろう。プロジェクションする場合は勿論だが、ヘッドセットを使用する場合も全体の画像の中の一部(約1/4程度)を見ることになるので、元画像は高解像度が求められることになる。

それまで8K相当の高解像度の撮影ができるVRカメラは、Kandao Obsidian RやInsta360 Pro2など40~70万円程度の価格帯の業務用のプロ機に限られていた。また近年は11K2D撮影が可能なInsta360 Titanや12K3Dの撮影性能を誇るObsidian Proのような、さらに高額で超ハイエンドのシネマティックVRカメラも登場している。

QooCam 8K Enterpriseは高解像度が記録可能でありながら、レンズ構成がフロントとリアのデュアルフッシュアイ(2眼)の構成となっており、筐体のサイズが179mm × 57mm× 33mm、重さが275gと小型・軽量なので、音楽ライブのステージなどに配置してもマイクに近い形状だからあまり目立たないというメリットがある。スペックから鑑みて、コスパが良いVRカメラと言えるだろう。(因みに、QooCam 8Kは、現在、ディスコンとなっており、8KVR撮影ができ、購入可能な同社のコンシューマー機は、QooCam 8K Enterpriseのみとなる。)

04QooCam Studioにおけるステッチとレンダリングを、ELSA VELUGA G3-15で実践

QooCam 8K Enterpriseではデュアルフッシュアイで撮影された映像が1つのMOVファイルに記録されるが、それをステッチをしてVRの基本的なフォーマットであるエクイレクタングラー(正距円筒図法)に投影変換する必要がある。ステッチには基本的にKandao社から無償で提供されているPC用のQooCam Studio 2.0というアプリか、スマートフォンやタブレットで用いるQooCam Appを使用する。今回はELSA VELUGA G3-15に、QooCam Studio 2.0をインストールして、ステッチとレンダリングのパフォーマンスを試してみた。

8K 30fpsの素材を1分程度にトリミングし、フリンジ削除(偽色低減)、色補正(繋ぎ目の露出差を目立たなくブレンドする)、オプティカルフロー(高度なステッチ機能)をそれぞれオンにした状態で各動画コーデックで書き出してみた。

その結果、所要時間はH.265でおよそ2分10秒。H.264(4K以上の書き出しには画質的には推奨されない。)だと6分43秒程度。ProRes422HQの場合、2分30秒ほどであった。

Intel Core i7-6700HQ CPU 2.60GHz、NVIDIA GeForce GTX 1070のグラフィックカードを搭載した一昔前のスペックのゲーミングマシンと比較しても、出力の時間を倍近く短縮でき、作業効率に大きく貢献することが判った。書き出し中は8KVR動画のレンダリングだけあって、終始ファンが回転している状態だが、然程うるさくは感じられなかった。

058KVR動画をVarjo Aeroで視聴してみた

それでは、いよいよQooCam 8K Enterpriseで撮影した8K 30fpsの360度VR動画の視聴である。まず、Varjo Aero互換ラップトップPCであるELSA VELUGA G3-15にVarjo Aeroを接続する。ポジショントラッキングには、SteamVR BaseStation2.0を使用した。Varjo Aeroではヘッドセット装着時に、内蔵アイトラッカーにより、自動的にIPD(瞳孔間距離)を57~73mmの範囲でキャリブレーションしてくれるので、デモの際に多人数で使用する場合も運用が楽である。

再生には、VR動画編集、8K再生に対応しているシリコンバレーのASSIMILATE社のSCRATCHVRというソフトを用いた。Varjo Aeroで実際に試聴してみると、115度の視野角にわたってクリアかつシャープな動画が表示されて感動する。Varjo Aeroは、視野角1度における解像度が35PPDとなっており、他社製品と比べて画素密度が非常に高いので、ピクセルの狭間が網目模様のように見える所謂スクリーンドア効果が発生せずに、写実的な描画を可能としているのだ。QooCam 8K Enterpriseで撮影した動画の場合、特に近距離の被写体がシャープに感じられる。因みにカスタムメイドの非球面レンズは、中心部が35PPDから外側に向かって27PPDまで、次第に画素密度が下がる仕様になっている。また、ユーザーの視線をフォローし、中心の視野だけを高解像度に表示する中心窩(フォービエイテッド)レンダリング技術が実装されていることで、マシンへの負荷を低減させている。パワフルなELSA VELUGA G3-15とのコンビネーションにより、ヘッドセット使用中は、それなりに温度は上昇するものの、8Kの高解像度のVR動画でもカクツキ(ラグ)などはなく、一貫してスムーズに再生されていた

QooCam 8K Enterpriseで撮影した8K 30fps 360度VR動画

06まとめ

ELSA VELUGA G3-15とVRヘッドセットVarjo Aeroで8K360度VR動画を視聴してみて、ノート型PCでも、これまでにない高精細なVR体験が快適におこなえることを実感した。Varjoシリーズの上位機種であるVarjo VR-3は解像度が70PPD程度とさらに高く、人間の眼以上の解像感があるとされているが、Varjo Aeroなら携帯性の良いラップトップのELSA VELUGA G3-15で、シンプルに運用できるアドバンテージがある。この組み合わせであれば、出先でもプレゼンやデモなどにおいて使い勝手の良い業務用VRツールとして十分に成立することと思う。また今回使用したQooCam 8K Eneterpriseはコンシューマー向けVRカメラであるが、さらにレンズの数も多く、イメージセンサーの大きなプロ向けのハイエンド機で撮影したコンテンツであれば、より高画質が期待できるので、今後は様々なVRカメラの映像の再生もこの組み合わせで試してみたいと思った。これまでの厳ついゲーミングマシンやワークステーションよりスリムで軽量でありながら、VR動画の撮影後のステッチ作業、ポスプロ編集、レンダリング、再生、そして視聴までをモバイル環境でスマートに実現できるELSA VELUGA G3-15を、筆者も日々の作業に導入してみたくなった。